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東京高等裁判所 昭和39年(ラ)109号 決定

抗告人 鈴木弘文

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣旨および理由は別紙のとおりである。

本件記録によれば、原裁判所は抗告人所有の本件不動産競売事件(昭和三八年(ケ)第八号事件、本件強制競売申立事件の記録が添付された事件)について、昭和三八年一一月一八日、競売期日を同年一二月九日午前一〇時、競落期日を同年同月一一日午前一〇時と定めて所定の公告および利害関係人に対する通知を行つたこと、ところが同年一二月七日に右競売事件((ケ)第八号事件)の申立人は競売申立を取下げたため、同月九日には本件強制競売事件について競売期日が開かれた結果、本件競落人両名がそれぞれ最高価競買申出人となり午前一一時一〇分に右の期日は終了したこと、ところが債務者である抗告人は同日川崎簡易裁判所に対し民事調停(昭和三八年(ノ)第八七号事件)を申し立てるとともに右調停事件の終了にいたるまで本件強制執行を停止する旨の決定を得てその決定正本を同日午前一一時三五分に原裁判所に提出したこと、そこで原裁判所は同日、同月一一日の競落期日を変更し次回期日はおつて指定する旨の決定をするとともにその旨を裁判所の掲示場に掲示したこと、その後昭和三九年一月二四日に前記調停事件は不調となつて終結し同年二月一七日には債権者から右事由により本件強制執行の続行を求める旨の上申書が原裁判所に提出されたので、原裁判所は同日本件競落期日を同月一八日午前一〇時と指定するとともにその旨を裁判所の掲示場に掲示し、右の二月一八日には競落期日を開いて利害関係人等不出頭のまゝで本件各競落許可決定を言渡したことが、明らかである。

先ず抗告人は、前記昭和三八年一二日一一日には、既に強制執行停止決定の正本が提出された以上、執行裁判所は必ず競落期日を開いた上異議申出の有無にかゝわらず競落不許の決定をしなければならないのに、慢然競落期日を変更した原審の措置は違法である旨を主張する。しかし、競落期日の指定、変更は執行裁判所の専権に属するのであつて、本件のような場合でも一旦定めた競落期日を絶対に変更できないとすべき理由はない。もつとも、競落期日を開いたときは、本件のように強制執行停止決定の正本が提出されていて民事訴訟法第六七二条第一号後段にあたることが一見明かである場合には特段の事情がない限りは同法第六七四条第二項により職権によつても競落不許の決定を言渡し同法第六七六条により新競売期日の指定をすることが妥当な処置といえるであろう。しかし、そのような場合でもたとえば競落許否の事由の存否について更に検討をするため競落期日を続行もしくは延期することも差支えないし、競落許否の決定を暫く留保し、競落期日を変更しその期日を追つて指定する処置をとることもまた執行裁判所の裁量の範囲内に属すると解するのが相当である。したがつて、原裁判所が本件競落期日の変更についてとつた処置は何ら違法なものとはいえないから、この点に関する抗告人の前記主張は採用の限りでない。

次に抗告人は原裁判所があらたに指定した競落期日を利害関係人に通知せず市町村役場に公告もしなかつたことは違法であると主張するけれども、元来最初の競落期日は競売期日とともに公告されるのであるから、これを特に利害関係人に通知する必要はないと解せられ、本件のように右の公告があつて競売期日も完了した後に競落期日のみを変更するような場合にはその旨を裁判所の掲示場に公告して利害関係人にこれを知る機会を与えれば足り、更にその上にこれを利害関係人に通知することはもとより、市町村役場に公告することも必要でないと解するのを相当とするから、この点についての抗告人の主張も採用することができない。

その他本件記録を精査しても、原決定取り消しの事由となるべき違法の点は見出されないから、本件抗告を理由がないものと認めて主文のとおり決定する。

(裁判官 西川美数 影山勇 秦不二雄)

別紙

抗告の趣旨

右競落許可の決定を取消し更に相当の御裁判を求める。

抗告の理由

一、本件競落期日は最初昭和三十八年十二月十一日午前十時と指定され、之れについては適法の公告があつた。

二、抗告人は其競落期日以前即ち昭和三十八年十二月九日競売手続停止決定を受け、直ちに該決定正本は執行裁判所へ提出し競売手続の停止を求めたものである。

三、執行裁判所は右競落期日たる昭和三十八年十二月十一日には利害関係人が出頭しても、しなくても又出頭した利害関係人が異議があつても、なくても競落期日を開き其期日の調書を作るべきものである。

又右競落期日を変更又は延期する場合には其決定をなし、次回期日を定むるか或は追て指定すべき旨を明記すべき必要がある。

民事訴訟法第六七二条、第六七四条の規定に従い全く競落を許さざる場合においては新競売期日を指定する、若し其期日指定のない場合には競落を許し又は許さざる旨言渡をなすべきものである尚執行裁判所は右競落期日において既に執行停止の決定のあつた場合は其停止の効力を失う時期は不明であるので、民事訴訟法第六七二条の一に該当するものとして同法第六七四条二項に則り、職権により競落不許可決定を言渡すべきものである。従つて斯る場合には競落期日延期等はすべきものではない。

四、然るに執行裁判所は正規に公告したる競落期日において該期日を変更又は延期する旨何等の決定手続をなさず、漫然と延期をなし昭和三十九年二月十七日に至り突然競落期日を昭和三十九年二月十八日午前十時と指定する旨決定し利害関係人に其期日通知をすることなく同日競落許可決定を言渡した。

利害関係人は第一回の競落期日は公告により知ることを得るも、新たに指定した競落期日については之を知ることが出来ず、従つて該期日における異議申立なしうる権限を与えなかつた異法を免れないものである。

五、本件の昭和三十八年十一月十八日の競売及び競落期日公告においては、競売期日を同年十二月九日午前十時、競落期日を同月十一日午前十時としてそれぞれ指定公告された。

六、右競売期日にはその競売期日が開かれ、競売手続が履行されて競売調書が作成された。

七、しかし抗告人は同年十二月九日川崎簡易裁判所に、執行債務の支払につき民事調停の申立をなし、且つ右強制執行の停止命令を求め、同日同庁において右調停事件(同庁昭和三八年(ノ)第八七号)の終了に至るまで右強制執行を停止する旨の決定を得たので、即日執行裁判所に対しその決定正本を添えて右執行手続の停止を申請した結果、執行裁判所においては同日前記競落期日たる昭和三十八年十二月十一日午前十時の期日を変更し、次回期日は追て指定するとの決定をされ、該決定は即日執行裁判所の掲示場に掲示された。

八、その後右調停事件は終了したので、本件強制執行手続は進行することになり、執行裁判所においては昭和三十九年二月十七日右競落期日を同年二月十八日午前十時と指定し、この決定は同月十七日同庁の掲示場に掲示された。

九、しかし競売期日の公告は裁判所の掲示板と、不動産所在地の市町村の掲示板とに掲示してこれをなすことを要するものであることは、民事訴訟法第六六一条に明定されているのに、右競落期日の公告については裁判所の掲示場に掲示されただけで、本件不動産の所在地である川崎市役所の掲示板に掲示されなかつたことは本件記録によつて明瞭であり、従つて右競落期日における本件競落許可の決定は違法であるから該決定は取消さるべきであるといわなければならないのである。

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